Photographers Art Japan

こだわりの美学

有賀さんの写真は、“静止画”なのに動きが見え、絵画のような美しさがある。

「ビートルズとローリング・ストーンズのどっちが好きか?」とか「ミック・ジャガー派かキース・リチャーズ派か?」とか、ロック好きの他愛のない酒飲み話は以前から多い。

特にビートルズとローリング・ストーンズはライバル視されていたし、バンド内でもライバルのように見られることが多かったから、その手のやりとりは酒の肴にちょうどいいのだろう、私自身はというと、ビートルズだけでなくローリング・ストーンズも80年代まではソロ作も含めて深掘りをしていたし、新作が出れば必ず買って愛聴している。

だから、これらの問いかけに対しては、「どっちも好き」と答えることが多いけれど、「ジョン・レノンとポール・マッカートニーのどっちが好きか?」と訊かれたときは、「ジョージ・ハリスン」と答えるようにしている。ビートルズは4人だからね。

そんなわけで、ローリング・ストーンズの日本公演も、ポールほどではないけれど、東京公演は毎回、二度は観に行くようにしている。

そうしたストーンズ遍歴のなかで、たびたび目にしていたのが有賀幹夫さんの写真だ。ローリング・ストーンズの日本で唯一のオフィシャル・フォトグラファー。有賀さんを形容するうえで欠かせないその一文を目にするたびに、「どんな方かな?」と思っていたが、いいご縁があり、同じく有賀さんが数多くの写真を手がけていた忌野清志郎さんの写真集を、私が当時いたCDジャーナルで編集することになった。

心配りの行き届いた職人『NAUGHTY BOY KING OF ROCK ‘N ROLL』のタイトルで2010年4月に発売されたその『忌野清志郎写真集』の編集作業のやりとりの中での有賀さんの印象である。プロとアマの境目がどんどん取っ払われ、“プロフェッショナル”と言える人がどんどん減っている。そうしたなかで、真のプロフェッショナリズムを兼ね備えた姿勢を、本が出来上がるまでの過程で何度も実感させられた。プロフェッショナリズムとは、妥協なく最後の最後までこだわる姿勢を貫くことだと。

またその写真集のアート・ディレクションを手がけた萩一訓さんが、この“Photographs Art Japan”のクリエイティブディレクターとして関わり、写真集のデザインを手がけた平山貴仙さんとも、その後CDジャーナルやムックなどでご一緒するという機会が生まれた。有賀さんとご一緒できたことがその起点となったことに感謝したい。

ローリング・ストーンズも忌野清志郎も同じように、有賀さんの写真は、“静止画”なのに動きが見える。しかも、“構成美”とも言える絵画のような美しさがある。特にライヴ・ステージでの写真は、表情や仕草は見惚れるほど。一瞬を切りとる職人技が素晴らしいのだ。

有賀さんによる2020年代のローリング・ストーンズの写真(“Tokyo Dome 2020”となればいいけど)も、今から楽しみに待ちたい。

藤本国彦(非メイン・ストリートのビートルズやくざ者)

藤本 国彦(ふじもと・くにひこ)
1991年(株)音楽出版社に入社し、CDジャーナル編集部に所属。2015年にフリーとなり、ビートルズ関連書籍の編集・執筆やイベントを数多く手がける。主な著作は『ビートルズ213曲全ガイド』『GET BACK…NAKED』『ビートル・アローン』『ビートルズ語辞典』『ビートルズはここで生まれた』など。「速水丈」名義での編著も多数。映画『ザ・ビートルズ~EIGHT DAYS A WEEK -The Touring Years』『ジョージ・ハリスン/リヴィング・イン・ザ・マテリアル・ワールド』『イエスタデイ』の字幕監修も担当。相撲とカレー好き。